第4回(1996年) 附.講演要旨集前言

日本鍼灸臨床文献学会第4回テーマ「内経と難経」

特別招待講演

1.中国 柳長華「『難経』の脈法」
2.中国 張燦玾「王冰注本『素問』の研究」

特別講演

1.京都 武田時昌「『黄帝内経』の思想的背景」
2.京都 中野勝輝「『難経』と経絡についての一考察」
3.奈良 藤本蓮風「臨床家からみた『内経』と『難経』における同一点と相違点について」

一般講演

1.愛媛 ○山岡傳一郎 山見宝 村山功「穴位主治症の文献的伝承と臨床的研究(第一報)」
2.東京 篠原孝市「『甲乙経』の穴位主治病證と経脈病證」
3.愛媛 ○山見宝 村山功 光藤英彦「『医心方』を骨子としての『黄帝内経明堂類成』の復元の試み(第三報)」
4.東京 暉峻年思子「『資生経』に引用された『銅人』について」
5.大阪 長野 仁「『五体身分集』について」
6.神奈川 上田善信「吉田意休と『刺鍼家鑑集』 」
7.大阪 宮川隆弘「杉山流百法鍼術についての考察」
8.東京 北江瀧也「『鍼灸経穴彙解』の検討」
9.神奈川 家本誠一「肉苛者-『素問』逆調論に於ける疾病の記載について-」
10.埼玉 藤山和子「『説文解字』に現れる医学用語と医学思想にいて」
11.神奈川 宮澤正順「道教と中国医学-曽慥を中心として- 」
12.宮城 浦山久嗣「『難経集注』における楊注について」
13.神奈川 上田善信「 明代における東垣鍼法」
14.神奈川 山本徳子「資料に見られる腰痛と治療法の歴史」
15.京都 宿野 孝「『診病奇侅』の検討報告」
16.京都 ○森和 矢野 忠 唐玉秀 李徳新「中医学における「整体観」の科学化に関する研究」
17.大阪 山口雄三「フランスにおける鍼灸医学の受容-文献的考察」
18.宮城 松木きか「歴代史志書目における医籍の範疇と評価」
19.鹿児島 藤木 実「『甲乙経』における穴位主治病証の研究-傷寒熱病における穴位主治条文について-」
20.大阪 武中一郎「歴代明堂書における主治症条文の構造に関する基礎的研究」
21.東京 宮川浩也「『史記』扁倉伝幻雲附票に引かれる『難経』について」
22.東京 戸川芳郎「『傷寒論』張機序の「勤求」について」

講演要旨集前言 日本鍼灸臨床文献学会会長 篠原孝市「第4回大会に向けて」

日中の関係各位のご助力を得て、本学会の第4回学術大会が実現することは、私たちにとって大きな慶びである。ご援助、ご協力をいただいている多くの皆様方に心より御礼申し上げたいと思う。

1992年夏、私が主宰している日本鍼灸研究会に学術的に優れた中国の研究者を招請して交流会ができないものかと考えたことが、本学会のきっかけとなった。その考えを中国に強い人脈をもつオリエント出版社社長・野瀬眞氏に伝えたところ、後援を引き受けてくださることとなり、結果、日中ばかりでなく国内の研究者相互が交流できる場が実現したことは、まことに幸であった。

本学会の大きな柱は、毎回の学術大会への中国の著名な古典研究者の招請と長時間の講演である。過去3回の大会を通じて北京より馬継興教授、銭超塵教授、上海より李鼎教授が来日され、天津の郭靄春教授が書面参加された。いずれも中国を代表する研究者として、古典研究の分野で大きな業績を持ち、かねて私たちが来日を渇望していた諸先生方である。特に幸であったのは、私たちが現在最も関心を持っている課題について真正面から応えていただけたことである。第1回、第2回の<黄帝内経の成立>、第3回の<金元鍼灸>についての講演は、各先生方の長年にわたる研究の精華であるとともに、また私たちにとっても是非とも聞きたいものであった。

このたびの第4回大会では<内経と難経>というテーマに基づき、山東中医学院から、張燦玾先生と柳長華先生を招請し講演をお願いしている。第3回の鍼灸のテーマから転じて第4回大会では再び原典の分野を対象とすることとなったが、第1回、第2回とは少しく論点の異なったものとなっていることに、特に注目していただきたい。これまでの『内経』についての中国研究者の講演と国内研究者の発表、討論の積み重ねを通じて、私たちは原典の研究という分野において、次ぎに設定されるべき課題というものに気付いた。それは原典における<注釈>というものの意味である。歴代の<注釈>をただ研究史的な観点から見て行くだけでなく、原典研究における本質的な意味というものを、この機会に改めて考えてみることができればと思う。

日中の学術交流と併せて進めなくてはならないのが、国内研究者の交流である。これには伝統医学内部の交流と伝統医学の関係者と中国学の専門家との交流の両面があるが、特に伝統医学と中国学の交流は今後大切な課題である。私たちが目指す臨床文献学にとっては、どうしても両者の学際的な研究を必要とするからである。

数回の学術大会を通じて、私たちは臨床文献学の研究というものについて、やった方がいいというよりも、本質的な問題を解決するには不可欠であるとの確信を一層強めた。もちろん、私たちの慌ただしい日本的土壌では時間のかかる本質的問題の研究というものは、なかなか根付かせることが難しい。しかし、より良い成果というものは、長い時間にわたる個別的努力に加え、自由で活発な学術交流の中からしか生まれてこない。特に学術交流は個々人の研究を促進し、新たな展開のための助けになると思う。

私たちは今後とも一貫した方向性を持って、本学会を維持発展させていきたいと思う。多くの皆様方の変わらぬご支援とご指導を心から念願する。

 大会日程:1996年3月22日~24日 大会会場:立命館大学国際平和ミュージアム(中野記念ホール)
主催:日本鍼灸臨床文献学会 後援:株式会社 オリエント出版社