第3回(1995年) 附.講演要旨集前言

特別招待講演

1.中国 李鼎「金元鍼灸の総説」
2.中国 李鼎「『鍼経指南』の研究」

特別講演

1.神奈川 山本徳子「経絡についての一考察」
2.京都 坂出祥伸「葛洪の医薬観と『肘後備急方』」
3.石川 多留淳文「『素問』にみる気穴365の吟味」
4.高知 塩見哲生「病をなおす“法”と病をなおす“コツ”」
5.東京 長谷部英一「張介賓の学術について」
6.大阪 森秀太郎「日本近代の鍼灸図書とその背景について」

一般講演

1.大阪 宮川隆弘「杉山流鍼法と管鍼法に関する考察」
2.愛知 楠本高紀「文化文政年間の経穴学について」
3.神奈川 上田善信「曲直瀬家の灸法について」
4.愛媛 ○山見 宝 光藤英彦「『医心方』を骨子としての『明堂経類成』の復元の試み」
5.宮城 松木きか「『甲乙経』の音釈について」
6.東京 篠原孝市「『甲乙経』における穴の主治證の研究・第三」
7.神奈川 上田善信「『甲乙経』巻之三にみられる刺灸法の量的考察」
8.東京 篠原孝市「『甲乙経』における穴の主治證の研究・第二報」
9.東京 暉峻年思子「『銅人兪穴鍼灸図経』の刺入深度」
10.東京 北江瀧也「『難経』脈論の考察」
11.宮城 浦山久嗣「王冰注にみえる『中誥』について」
12.東京 小池盛夫「五蔵の名称の一考察」
13.大阪 武中一郎「『甲乙経』における経穴主治症の経脈別分布状況に関する研究」
14.京都 猪飼祥夫「鍼灸古文献に見る口腔の経穴考」
15.東京 島田隆司「荻野元凱『刺絡編』について」

講演要旨集前言 日本鍼灸臨床文献学会会長 篠原孝市「第2回大会に向けて」

1993年3月の第1回学術大会から2年、ここに第3回学術大会を開催することとなった。この間、一貫して本会を支持応援してくださっている多くの学会参加者、関係各位、並びに後援者であるオリエント出版社社長・野瀬眞氏に心から感謝を捧げたいと思う。

私たちの意図するところはただひとつ、『内経』を中心とする中国古典医学並びに鍼灸医学総体について、古典文献に基づき厳密に研究、検討することによりその内容を把握し、もって現在の臨床上の諸分野に新たな視点を持ち込むことにある。中国医学や鍼灸医学を現代医学の面から研究するばかりではなく、なによりもそれ自体をあるがままの姿で研究することが必要である。こうした研究の必要性を強く感じている斯界の関係者は決して少なくないと思う。第1回、第2回の学術大会の内容はそうした方向性に沿って実現したものであり、今後ともこの方針を堅持して進んで行く所存である。

以上述べた私たちの意図が難解と感じられるならば、同じことを次のようにやさしく言い換えても良いと思う。例えば私たちが中国医学としての鍼灸医学を志向し、かつ、そのなかで脈状の診察を臨床に導入しようとすれば、先ずなによりも脈状についての歴代の文献資料を読み、それらについての厳密で豊富な概念を得なくてはならない。このことは自明であり、別の道はあり得ない。何の概念も規矩もなく脈を診ていて自然に中国医学の脈診に到達することなど決してないからである。しかし、診断学を学ぶために診断学書をひもとくことを疑わないものも、何故か中国医学においては一転して書を捨てた素朴な経験論者になってしまう。そこでは<古典文献は臨床とは関係がない>という信念は固定して決して疑われることがない。あるいは中国医学、鍼灸医学の若干の枠組みに基づいて臨床から出発するものも、ついに他に通じ難い自己経験の世界に行き着いてしまう。どうもこれが多くの<東洋医学>関係者のたどる道であるらしい。こうして私たちの伝統医学、鍼灸医学の世界は閉ざされた自己経験の言葉に満ちている。そこではただ理解できないままに喝采すること、あるいは敬して遠ざかることしか許されていない。しかし、共通の土壌としての中国医学の言葉で語られない臨床では共有しようがないし、外に向かって開かれていない言葉など何の発展性も期待できない。私たちが古典文献の研究を強調するのは、ただそれが臨床にとって意味があるこあらだけでなく、あわせて各種の問題を検討できる最低限の言葉の整理と、共通の基盤の形成を念願しているからでもある。

現在、中国医学と鍼灸医学について流布している観念の多くは、徹底して再検討されなくてはならないような根拠の脆弱なものである。中国医学や鍼灸医学の実体はまだ殆ど解明されていない。しかし今後、私たちの研究が進展することによって、現在の教育機関で使用されている教科書その他に書かれている中国医学、鍼灸医学の内容の多くは、次々に書き換えなくてはならなくなる事態が訪れることであろう。臨床方法に対する影響については言うまでもないことである。

この度の学術大会へは、金元鍼灸研究の大家である上海中医薬大学教授・李鼎先生をお迎えして、金元鍼灸に関する特別招待講演をしていただく予定である。これまで我が国で古典的鍼灸といえば、『内経』でなければ江戸期の若干の鍼灸文献の中のそれのことであり、金元期の鍼灸については中医鍼灸関係者の中で僅かに問題とされることはあっても、学会などで直接大きく取り上げられることはなかったと思う。私たちは宋以前の鍼灸、日本江戸期の鍼灸とともに金元鍼灸に対しても特に注目している。金元期に展開された概念と方法が今日の鍼灸臨床に及ぼした影響はきわめて大きいからである。金元鍼灸の研究はまさに緊要の課題である、これを機会に我が国でこの方面の研究が進むことを期待したい。

最後になったが、今回も国内の多数の熱心な研究者の方々が意欲的な演題をもって参加してくださることに対して、心から感謝の言葉を述べたい。座長、演者ともに皆な一家言をお持ちの方々であり、活発な学術の交流が期待されるところである。本学会の一層の充実のため、今後とも多くの皆様の御助力とご支援を切にお願いする。

 大会日程:1995年3月19日~21日 大会会場:立命館大学国際平和ミュージアム(中野記念ホール)
主催:日本鍼灸臨床文献学会 後援:株式会社 オリエント出版社