鍼灸考’97(1997年) 附.講演要旨集前言

鍼灸考’97 IN KYOTO -古典医学と文献について-(第5回)

特別講演

1.石川 多留淳文「楊継洲『鍼灸大成』の新価値」
2.東京 小曽戸洋「幕末考証医家とその業績」

一般口演

1.東京 北江瀧也「『類経図翼』の主治病證」
2.宮城 浦山久嗣「『医学綱目』の鍼灸」
3.愛媛 ○山岡傳一郎 益田修 山見宝 村山功 光藤英彦「大杼穴主治症のイメージ」
4.愛媛 ○山見宝 村山功 光藤英彦「幻の『明堂経』の復元とその意義」
5.宮城 松木きか「医書序文にみる医学史観」
6.東京 小池盛夫「上七竅における口の役割について」
7.石川 劉園英「『黄帝内経』における体質学説」
8.神奈川 上田善信「古林書堂本『素問』『霊枢』の音釈について」
9.京都 中川俊之「『脈経』における脈診位置の設定」
10.東京 稲垣 元「『曲周』について」
11.東京 宿野 孝「病証研究試論 ―劉完素―」
12.神奈川 家本誠一「望問切 ―診断の機構―」
13.大阪 森秀太郎「御薗家古文書について」
14.京都 高島文一「山本玄通と岩田利斉」
15.大阪 長野 仁「―新出の吉田流資料― 『是好巻』に関する一考察」
16.東京 篠原孝市「金沢文庫本『資生経』について」

講演要旨集前言 日本鍼灸研究会 篠原孝市「鍼灸考’97 IN KYOTOについて」

我が国の伝統医学が復興されてから70年余、その存在は一定の社会的認知を得たように見えます。一方、この医学の総体を、より本質的に検討し議論しようとする気運は、これまでそれほどの高まりをみせませんでした。それは、あるいは時代の歩みの余りのはやさに、過去の事蹟を云々する余裕はもちろん、内容を根本的に考える暇も持つことがかなわなかったということなのでしょう。我が国でそうした動きが本格化してきたのは、ようやく1980年代以降のことです。

例えば、鍼灸というものは、その立場のいかんにかかわらず、なにがしかの伝統的用語や概念、方法抜きには成立しません。ところが、我が国では過去の事蹟の研究、すなわち伝統的な理論と文献についての実質的な研究が大きく立ち遅れており、そのため、臨床の場において、伝統とかけ離れた独断や誤解が少なくありません。一方では伝統的言辞を使いながら、他方ではその内容について正確な知識や概念が持てないという否定的な状況は、私たちの鍼灸を大きく制約しています。しかし、本当に過去2000年の伝統を今に生かそうとするなら、その伝統について正確な知識を持つことは当然です。そしてそのためには、伝統的な文献とそれにより構成される理論に対する根本的な研究が行われる必要があります。この要請はわたしたちが伝統医学の立場に立とうとする限り、避けられないものである、というのがわたしの考えです。

このたびの学術発表会<鍼灸考’97 IN KYOTO>は、わたしたちが中心的にかかわってきた日本鍼灸臨床文献学会学術大会に準じて構成されています。1997年度は恒例の京都での学術大会が開かれなかったため、これはある意味ではそれに代わるものといえます。本発表会では、さまざまな角度から鍼灸その他の伝統医学の諸問題が、著名な研究者諸氏により論じられます。また発表に基づく論文集が来春刊行されます。多くの方々が本発表会に参加され、伝統的な鍼灸の問題に関心を深められることを心より念願します。

1997年10月1日

 大会日程:1997年11月30日 大会会場:ハートピア京都(京都府立総合社会福祉会館)
主催:日本鍼灸研究会